大規模外食産業が本部とエリアマネージャーにiPhoneを配布

すかいらーくは、和洋中を取りそろえた多彩なブランドでファミリーレストラン等を展開している企業だ。
ガスト、バーミヤン、ジョナサン、夢庵、藍屋といったブランドは、多くの人にとって馴染みのあるもの
だろう。 現在外食産業の中では最も大きな規模を誇っている。外食市場は成長が鈍化していると言われるが、
すかい らーくの業績はすこぶる好調である。

店舗数はすかいらーくの直営だけで全国2600。アルバイトやパートタイマーのスタッフを含めて約9万 5千人が働いている。その業務を支えるために、2014年はじめにiPhoneを導入した。

iPhoneは、以前から支給していた法人契約のフィーチャーフォンと入れ替える形で配布された。長く 使ってきたフィーチャーフォンはかなり古くなり、壊れやすくもなっていたという。フィーチャーフォンの新機種 がほとんど発売されなくなったために中古端末なども活用していたが、購入コストが高く、サポートもない のに壊れやすいなど強く不便を感じていた。そこに、社内で利用していたアナログ電話交換機をIP電話交換 機に入れ替えるという案件が持ち上がったことで、同時に携帯電話もiPhoneへ入れ替えようという動きに なったのだ。

「電話関連の管理は総務部門の担当でしたが、IP電話やiPhoneといったことになると情報システム部門 の参加が必要になります。そこで、導入までの流れに私が参加しました。以前から本部はソフトバンクの iPhoneを利用していたのですが、本部とエリアマネージャーにiPhoneを展開するにあたって全てKDDIの iPhoneに切替えました」と語るのはオフィサー コーポレートサポート本部 情報システムグループ Deputy     Directorである
岡本兵衛氏だ。

iPhoneの発注を行ったのは2013年2月頃。試験等を行った上での実運用開始は2013年5月の予定 だった。しかし実際に展開が終了したのは2014年3月だ。この予定外の導入期間は主にMDMの選定と導入 のための時間だった。

PC並のiPhone管理を実現するMobileIron

「MDM自体は当初から導入する予定でしたが、キャリア提供のもので済ませるつもりでした。ところが、 当社が必要としている機能が不足していた。急遽、もっと高機能なものを探すことになりました」と岡本氏 は語る。当時、NTTコミュニケーションズから提案されたのが、MobileIronだったという。

希望していたのは、社内ですでにモバイル環境で活用しているノートPCと同等の管理だった。デバイス の取り回しはもちろん、その内部の動き、コンテンツの利用なども含めて企業が導入するデバイスとして 適切な管理を行いたいと考えた時に、シンプルなMDMでは機能が不足していた。

「スマートフォンというのは、PCと同じです。同じようにしっかりと管理したい。もちろん、ルールとして社内 で書類を取り交わすことでクリアする方法もあるでしょう。しかし、ある程度の管理は絶対必要だと感じて いました」と岡本氏。特にアプリのブロックや、利用方法の制限などについて、希望レベルにはキャリアから 提供されるMDMでは機能が不足していた。初期段階ではiPhoneのみを導入するが、社内ネットワーク内 で使用するiPadを含めた多彩な端末に対する細やかな対応を考えるとクラウド型ではなくオンプレミスで の運用を希望していたという事情もあり、MobileIronが採用された。

「当時MDMに第1世代と第2世代があるということすら知りませんでした。キャリア提供は第1世代、 今は第2世代が主流です、という言葉とともに、MobileIronを紹介されました。機能の多彩さや世界的な 実績、十分に使われてきたという枯れ具合も魅力に感じられたのでMobileIronを選定しました」と岡本 氏は語った。

MobileIronのPremium Bundleで厳しい制限を実施

導入にあたっては単純なMDMではなく、MDM/MAM/MCMといった 各種機能を含むEMM基板であるPremium Bundle版が採用された。 モバイルデバイス管理能力と包括的なセキュリティやアプリに対する制限 といった性能を併せ持った、企業のための高度なモバイル管理を実現 できる環境で、非常に厳しい制限を加えてのiPhone導入を行っている。

「 今のところIP電話 、交 換機と接続して本部 、店 舗 、エリアマネー ジャー、工場、ルームサービスとの通話を内線化するなど、電話としての使 い方が中心です。現場の写真を撮る、メールを読み書きするという使い方 もしていますが、特別にモバイル端末で何か業務を行うという使い方はし ていません。そのため、アプリは最小限まで絞り込んであります」と語るの は、運用を担当しているコーポレートサポート本部  情報システムグルー プ PC・イントラチームのリーダーである椿正玄氏だ。

メール、地図、ブラウザといったごく基本的なアプリ以外を停止させて おり、ブラウザに関してはイントラネットに接続できるセキュアブラウザ と、一般的なサイトを閲覧するためのサファリとを使い分けるようにも指導 している。ユーザーが良い悪いを判断するのではなく、運用管理者が許可 したものだけが利用できるようにするホワイトリスト型の運用だ。

もちろん、現場からはいろいろなアプリを使いたいという声が出て来て いるようだ。乗換え案内やカーナビアプリ、経済ニュース閲覧用のアプリ など業務にも有効であり、特に情報流出等の危険性もなさそうなアプリの 名前が挙っているという。

「特にiPhoneをすでに使っていたユーザーからは、なぜあれもこれもで きないのか、というような声が出ていますし、具体的な要望が大量に出 ています。一方で現場のエリアマネージャーからは書類としての要望は 上がってこないのですが、会話の中で実はこれがやりたい、というような 感じで出てきますね。そういったニーズを広いあげて、すでに300個ほどの アプリリストができました。この中から安全性等を確認して、必要なものは 順次導入する予定です」と椿氏は語る。

「厳しく入れて緩める」がデバイス管理の正解

柔軟にユーザーニーズを取り入れる気持ちがありながら、なぜ導入段階 では非常に厳しい制限を課したのか。それは、今後の運用をスムーズに 行うための工夫だった。

「厳しい状態から緩和することは簡単です。しかし緩くスタートした後 で、機能を絞り、制限を厳しくすることはとても難しい。だから、最初は 厳しい導入方法にしました」と岡本氏。とりあえず導入した上で試行錯誤 しようというやり方は少なくないが、その第一歩として可能な限り機能を 絞り込んだ形をすかいらーくは選択したわけだ。

しかし一般的に、非常に厳しい制限を行う業種といえば金融業や、個人 情報を扱う業務が思い浮かぶ。外部から見れば、飲食業のエリアマネー ジャーが持つ端末にそれほどの管理が必要なのだろうか、という疑問も 出るだろう。

「私は以前金融業界にもいたので、金融業界がどれだけ厳しいのかは 知っています。しかし、企業として受ける監査は金融業でも飲食業でも 変わりません。監査に備えるという意味でもきちんとした管理を行わな ければなりません」と岡本氏。どの程度まで緩めていいのか、どういう管理 を行うべきなのかといったことに関してはすかいらーく内でも悩みどころだ というが、まずは厳しめの状態からスタートすることになった。

快適な活用に向けてMobileIronを使いこなす

今後の展開としては、グループ企業へのiPhone導入なども考えている という。また、導入済のiPhoneに対して許可するアプリの選定なども積極 的に行いたいとしている。

「ユーザーニーズを先にとらえて、こちらから積極的に配信したいですね。 ただiPhoneの場合、Androidと違ってアプリがどんな権限を要求して いるのかといったスコアが確認しづらいので選定が難航しています。もっと スムーズに行えるとよいのですが」と椿氏は語る。

導入後のトラブルとしては、端末の置き忘れによるリモートワイプを 行う必要が出たことがあるという。「うっかりは誰にでもあります。事情を 聞けば本当に忙しい中のミスで、とても責められるようなものではありま せん。でもリモートワイプをすれば安心です。そういった現場の人を守るため のMDMですから」と椿氏。実際の運用時には、MobileIronはスムーズに 活用できているようだ。「MobileIronの操作画面は、最初は難しく感じられ ましたが3カ月ほど使ううちに全員が慣れました。今では快適に使って います。導入の最終段階で大変だったのは、キッティングや配布といった 部分ですね」と椿氏は語る。

全国に散らばって業務を行っているエリアマネージャーは、1人が複数 店舗を担当している。日常的に移動を繰り返していること、IT関連企業で はないためITリテラシーが
一定ではないことなどを考慮する必要があっ た。そのため、さまざまな条件の社員を20名ほどピックアップして先行配 布を試験的に行ったという。

「担当店舗のうち1つに送付して受け取る、という条件で配送しましたが、 やはり実行してみるといろいろな課題が見つかりました。本番までには マニュアルの作り直しなども行い、いろいろと工夫することになりました」 と岡本氏は語った。

当初の想定よりは長い時間をかけたiPhone導入となったが、この流れ を振り返って大切なのは企業規模、導入規模に合わせた展開だという。

「弊社の場合はまず1000台というところでしたが、これが数万台規模 ならばまたいろいろなことが変わってくるのでしょう。しかし大事なのは、 計画期間をしっかりとることです」と岡本氏。すかいらーくの場合も、キャ リアMDMの利用を考えていた当初計画からのズレが出た段階で仕切り 直し、妥協せずにMobileIronの導入と活用を行ったからこその導入成功 なのだろう。今後はさらなる活用に向けて、MobileIronの機能がフル活用 される見込みだ。